不妊に悩む方への看護



選択肢がひとつでないこと、そしてライフスパンで考えていただくために

医療機関を上手に利用するには

患者が治療の主体者であり続けられる環境にするための
看護者の役割




選択肢が一つでないこと、そしてライフスパンで考えていただくために

                                                       赤松 彰子

 産婦人科に相談室を開設(1974年)して以来、30年近くになります。30年前は100%女性が悪いと言われ、女性がつらい検査を終わり、異常がないとわかってから、夫が渋々受診するという夫婦がほとんどでした。今では同時に受診する人がほとんどですが、女性のつらい思いに変わりはないようです。排卵誘発剤しかなかった頃には「あきらめ」が早かったように思います。10年前から体外受精を始めるようになり、だんだん可能性を求めて続けられる方が増えました。そのような中でいくつかの事例をあげてみます。

 A子さんは中学3年生の初経以来、年に2〜3回しか月経がないまま、20歳になりました。ある病院で手術を受け、医師より「子宮は親指の頭くらい、左の卵管はつぶれています。多分子どもは無理でしょう。」と告知されました。「子どもが産めない」ことを前提条件に、見合いを重ねて7回目に出会った男性と結婚。月経をせめて年5〜6回にするために、誘発剤を使用開始。なんと半年後に妊娠したのです。切迫流早産で安静を続け、2500gの小さい赤ちゃんを産みました。その後、2回目の流産を体験しましたが、3人の子の母になりました。

 B子さんは短大を卒業と同時に、10歳年上の男性と結婚。20歳で母親になるのは可哀想という夫の提案で、しばらく避妊をしていました。ところが卵巣嚢腫になり、片方の卵巣をとりました。その後の妊娠は流産に終わり、再び妊娠することはありませんでした。一流企業のエリート社員である夫は転勤族です。分厚くなった基礎体温表と医師の紹介状を手に、全国を廻りました。B子さんの30歳の誕生日に「不妊治療に専念しないで何か好きなことを始めて欲しい」と夫から言われ、書道をはじめました。夫はその頃から、8時には帰宅して夕食を共にする努力を続けたのです。「子どものいない君がひとりで食事をするのはつらいだろう」と。40歳の誕生日、「長い間の通院ありがとう」と海外旅行のプレゼントでした。B子さんは書道で生計が立てられるほどの腕前になって、還暦を迎えました。

 C子さんは開業医でも体外受精ができるようになった10年前、夫婦で相談室へ来ました。以前、不妊治療を受け、誘発剤の副作用で腹水が貯まり入院、その後治療を辞めていましたが、実母と姑が体外受精のことを耳にして、再度治療をするように勧めたのです。しかし、体外受精が以前よりも多くの誘発剤を使うことを話すと、夫は「これ以上、妻のからだに負担はかけたくありません」と言いきりました。「僕たち夫婦も、もとはといえば他人です。ここにもうひとりの他人を加えても、家族は作れると思うのです。」と養子縁組を考えたと明るい顔で報告に来ました。

 どうして子どもが欲しいのか、不妊治療を受けるか受けないか、受けるとしたら何処まで受けるか、それらを患者・カップル自身が考えるプロセスの必要性に目を向け、寄り添うことができたらよいと思います。治療を受ける場合には、ズルズルとではなく、目標をもって治療するように提案したいものです。


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医療機関を上手に利用するには

                                                        浜崎京子

 私の勤務するクリニックは研究施設を併設した不妊治療専門のクリニックとして平成5年に開院しました。その後、平成8年から電話やFAXによる相談を開始し、現在では延べ数が電話で2万件、FAXも3000件を越えました。いろいろな相談が寄せられる中で「どの病院にかかったらよいのか」という質問が多くみられます。それはこれから受診する病院をどのように選択したら良いのか迷っているという場合と、現在受診している病院に不満を抱いている場合とに大別されます。特に現在の医療機関に不満を持っている人の多くは「何も説明してもらえない」と訴えます。逆に「ご自分で質問してみましたか」と問いかけると、驚いた様子で「先生に質問してもよいのでしょうか?」と言われることもしばしばあります。厚生労働省が医療はサービス業であるとの指針を示した現在でも、治療は受け身、いわれたようにやっていかなければならないと考えている患者さんがまだまだ多いのが現状のようです。質問することは先生の治療方針を疑っていることになるから、何も聞かない方がいいのではないかと感じているようです。一方で雑誌の記事やインターネットで情報を集めてみると、納得して治療を受けるように勧めているため、この状況ではまずいのではないかと悩んでいる方も多いようです。
 
 質問をしたい気持ちと、聞いてはいけないのではないかという気持ち。またどのように質問したらよいのか判らないと混乱している場合もあるようです。短い診察の時間内に質問をすることは確かに患者さんにとっては難しいかもしれないので、当院では予め質問したいことを簡潔なメモとしておくことをアドバイスの1つとしています。またどうしても長い時間がかかるような場合にはあらかじめ先生の予定を聞き、約束を入れておくことも手段の1つです。先生の予定は看護婦や受付に確認すれば、教えてくれると思います。もちろん医師以外の相談システムを採用している病院もあるので、まずどんな方法があるかスタッフに尋ねて見て下さい。それでも納得のいく説明を得られない場合にはセカンドオピニオンや病院を替えることも考慮した方がよいかもしれません。


病院の探し方
次に具体的に病院の探し方のポイントをいくつか挙げてみたいと思います。

1) 初めて治療を受ける場合
☆ 雑誌やインターネット、口コミ等情報を集める
☆ 受診してみたい病院に電話をしてみる。その際のポイントとして
    電話の対応がしっかりしている
    金額を明確にしている
    保険診療を行っている
    ご夫婦での受診を勧めている

2) 受診したら以下のことがきちんと行われているか確認してみましょう。
☆ きちんと説明した上で検査を行い、その結果から治療の方向性を示しているか
☆ 担当医が可能な範囲で決められ、同じ医師が診察してくれるか
☆ 話しやすいか
☆ スタッフの対応がきちんとしているか
☆ 不明な点や疑問点をすぐに質問できるシステムがあるか
☆ カウンセリングを行っているか

 一度受診して検査を行ったら病院を替えない方が良いと考え、無理に通院している方も多く見受けられますが、以上の点に問題があったり、治療は納得していてもどうしてもその病院が好きになれない場合などは、病院を替えることを考慮しても良いと思います。
 ただ安易に病院を替え、点々と治療をしても納得のできる結果は得られませんから、自分がどうしたいのかをまず一度よく考え、ご夫婦でも話し合いながら自身が納得して治療を受けることをお勧め致します。

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患者が治療の主体者であり続けられる環境にするための
看護者の役割

                                                     福井トシ子

1.不妊治療だけを専門に扱うわけではない施設にありがちな問題に対する看護者の役割

待ち時間をより快適に過ごしていただくために

 私の所属するところは、不妊専門の施設ではなく一般産婦人科外来に不妊外来があり、産科病棟に不妊治療室があります。このような不妊治療専門の施設ではない施設で治療を受けられる方は、待たされている実感を強く持たれるかも知れないと思うことがたびたびあります。
 
 不妊治療を受けている方に、治療中の悩みなどを答えていただきましたところ、『時間を無駄に使っているような気がする。』『診療までの待ち時間が長い』など時間に関することが少なくありませんでした。
初診時は、検査や治療についてのオリエンテーションを行うことで精一杯になりがちですが、2度目以降の診療時から徐徐に施設側のシステムや医師のスケジュールを説明していくようにすると、患者は、診療までの待ち時間を推し量ることができ、待ち時間の対処に役立てられるのではないかと思います。例えば、不妊外来専門日があっても、他科の患者も診ている医師は、時間の制約が大きいと思いますので、担当医師が他科(産科・婦人科など)の患者も診察するのかどうか、診察するとなれば、そのことによってどのような影響があるのかなどについて患者さんに説明するのです。
 
 また、不妊治療専門の医師でも、外来診療に加えて採卵などの手術が同じ日に予定されているときは、時間調整が必要となると思いますので、このことによって患者の診察への影響はどのようになるのかを説明します。
待つご負担には変わりありませんが、ただ待たされるということではなく、お待たせしなければならない理由をお伝えすることで、患者の通院にともなう時間的拘束感を少しでも和らげていただくためのお手伝いができるのではないでしょうか。
 
 その結果、待ち時間を利用して、患者同士でミニコミ誌をつくったりされる方々も現われました。看護者がミニコミ誌に載せる情報提供を求められたりすることもあります。このような患者・看護者関係はうれしいものですね。
お待たせする状況にあっても、より快適に過ごしていただくように、支援することも大切だと思います。もちろん、施設側は、待ち時間が短くなるようなシステムつくりを考えていかなければならないのは、いうまでもありません。
皆さんの中にほかに何か工夫なさっていることはありますか。


2.患者が治療経過においてアクティブになれるようにするための看護者の役割

 不妊治療を受けている方に、治療中に医療従事者に希望することを答えていただいたところ、『医師に説明を詳しくして欲しい』『看護者につらさをわかって欲しい』と答えていました。

検査・治療の段階を理解できるように

 通院のたびに必ず医師から説明をうけ、『検査しましょう』『検査の結果はこうでした。次はこうしましょう。』と進むとは限らないかも知れません。そんな時、次に進む理由は何かを患者が医師に確認できるように看護者がサポートできるとよいのではないかと思います。もちろん医師は説明をしているのですが、多くの制約がある診療場面では十分にわかりやすく説明した、という状態までいくのは難しいかも知れません。そんな時は、検査・治療の進めかたを理解するためには、予習や復習も必要であることを患者に説明し、次回の診察に臨んでいただきます。それでも理解できない時は、医師にわからないと話してみること、何を予習し、復習してくればよいかを聞くことも必要ではないかと、患者にアドバイスすることも時には必要ではないでしょうか。医師に尋ねたいことをメモにしてもってきていただく、あるいは診察時の医師の説明をその場で書き止めるようにするなどのアドバイスも有効だと思います。

患者自身が体の仕組みを理解できるように

 診察のたびに医師に分かりやすい説明してもらうためにも、自分の体の仕組みが分かっていて、自分の体に起こっていることを患者が言葉で話せることが大切だと思います。そして、これから行なわれる治療や、それにともなって体に生じることなどの理解、ある程度の専門用語の理解もできるようにサポートすることも必要ではないかと思います。
そのために、看護者は、回を重ねて説明を行ったり、不妊治療を受ける方々へのクラスを企画、運営するのも方法ではないかと思います。また、掲示版やリーフレットを準備し、体の仕組みや不妊検査・治療への関心を具体的にもっていただけるようにすることも必要だと思います。
 外来通院中に患者同士が知り合いになって得た情報は、必ずしも正しい理解に基づいていないことが多い、一人一人の治療方針は異なるものであるなどの理由から、自分にあてはめたり、比較することはお勧めできません。納得できない時は、率直に医師に聞くことを看護者はお勧めすることが必要だと思います。

患者にとって人的資源として看護者を活用していただくために

 医師に率直に質問して、自分が受けている検査や治療はどこに向かっているのかを、正しく知っていただくことが大切だと思います。そうは言っても患者が、医師に言えない、言いづらいという時には、看護者に声をかけてみるようにお勧めしていかがでしょうか。間に入って橋渡しをしたり、説明を加えさせていただいたり、医師からのその説明に対して、看護者がもう一度説明をさせていただくようにできることすることが必要だと思います。


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